2018年11月26日月曜日

Japanese Rice Whisky

以前、倉吉の記事でも載せた事がある、「日本のウイスキーのルールは緩いんじゃないか?」という話ですが、今回は、意外と他所も緩そうっていう小ネタです。

最近、近場の酒屋を巡っていたらこんなものを見つけたんですよね。
熊本の豊永酒造の奥球磨です。


シェリー樽で7年寝かせた米焼酎で、まるでウイスキーのような琥珀色。
こういう「樽で寝かせた焼酎」、最近ちょいちょい見かけますよね。数年前、バーのマスターからおススメされた極上堤もそうです。堤酒造が自社の焼酎を樽で長期間寝かせて出したプレミアム焼酎とも呼べる代物です。

で、極上堤や奥球磨といった焼酎は普通の焼酎とは少しだけ違いがあります。
それは焼酎としては販売されていないということ。日本では焼酎として販売するには吸光度が0.08以下、ざっくりと極めて個人的なイメージで言うと「3年そこら以下のスコッチウイスキーくらいの薄さ」程度までしか認められておらず、それ以上になるとリキュール表記になります。

要するに樽熟成されたリキュール表記の焼酎とは、長期熟成させると色が濃くなる為に焼酎として売る事は出来なくなってしまうが、そのリスクを負ってでも樽で長熟させた美味しい焼酎を作ってみたいというメーカー側のこだわりという事ですね。消費者としてそういった試みを応援したくなるので買っちゃうわけですけど。

この辺のルールは酒税法で明記されている訳ではなく、国税庁からメーカーに対して通達されている『酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達』により既定されているようです。法律上の曖昧な部分を、官僚が「我々は法律をこんな感じで理解しています」と言って出している通達ですね。司法が決めたルールに官僚機構が独自のルールを加えてるようにも見えなくもありませんが、まぁその辺は色々と大人の事情があるのでしょう。多分。


そんな訳で、奥球磨が結構美味いという話をとあるバーのマスターに話してたら「それってアメリカに持っていけばウイスキーになるんだよね」との事。なんでも”Japanese Rice Whisk(e)y”なるカテゴリーがアメリカにはあるらしい。そういえば、「アメリカの酒屋にあるジャパニーズの棚に見た事がない酒が並びまくっている」とツイッターで写真付きで見かけた記憶もあったな・・・。

面白そうなので早速調べてみると、出るわ出るわ。
様々なライスウイスキーがありました。幾つか上げるとこんな感じです。

●Kikori whiskey
https://kikoriwhiskey.com/
Webに蔵元は出ていませんが、熊本の常楽酒造が米国の会社に委託されて販売しているものです。木こりのマークが可愛いですね。

●OHISHI WHISKY
https://distiller.com/spirits/ohishi-single-brandy-cask
熊本の大石酒造ですね。以前から樽熟成焼酎に力を入れていた蔵元です。これは米焼酎をブランデーの樽で熟成させたものでしょうか。割と評価高めです。

●Fukano Whisky
http://thewhiskeyjug.com/japanese-whisky/fukano-whisky-review/
熊本の深野酒造。2017年バージョンが高評価のようです。

●White Tiger Whisky
https://www.yelp.com/biz/white-tiger-distillery-forest-hill
ラオスの米を使った蒸留酒「ラオラオ」を樽熟成させて"rice whiskey"として販売していたようですね。ちょっと調べた感じ、どうやら閉鎖してしまった様子。まぁこんなのもあったといった程度で。

●MOtO Spirits
http://motospirits.com/home/
オートバイで東南アジアを旅行した際に様々な米蒸留酒に触れた酒造家が作るライスウイスキー。名前がストレート過ぎる気がしなくもないですがw

●Vinn Distillery
http://vinndistillery.com/
中国からベトナム、そして米国へと移った移民の一家が学んだ酒造りのレシピで造られるライスウイスキー。


改めてみてみると日本からは熊本の球磨焼酎の蔵元が樽熟成&米国展開に手を出してるケースが多そうですね。他にもライスウイスキーとして販売されているものは、東南アジアからの移民が伝統的な米を使った蒸留酒を樽熟成させてウイスキーとして販売しているもの、といった様子。

幅広い国で作られていた様々な種類の蒸留酒を樽熟成させたものをザックリとウイスキーと言うカテゴリーで売られているといった所がいかにも移民の国アメリカらしいですね。


まとめ記事としてはこの辺が分かりやすい感じです。
●What’s the Deal with Japanese Rice Whiskey?
https://www.foodandwine.com/drinks/japanese-rice-whiskey-ann-soh-woods?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=social-share-article

アメリカのウイスキーの規格が「グレーン(穀物)由来の酒を蒸留して樽で寝かせたもの」なので、米も穀物だからウイスキーのカテゴリーに入れる事が出来るのだそう。そういえば、アメリカのマイクロディスティラリーで蕎麦や粟なんかも試している所もあるといった話を耳にしていましたが、これも同じ理屈でしょう。バーボンにはそれなりに厳格な規制がありますがウイスキーだけなら確かに規制は緩そうですね。

日本のウイスキーも規制は緩めだと思いますが、免許は簡単には取れません。
日本の場合は作る酒の種類別に免許を取る必要があるので、日本酒や焼酎の免許があってもウイスキーを作る事は出来ず、ウイスキーの免許を手に入れるにはウイスキーを大量に作って販売する前提を示して免許を交付してもらう必要があります。焼酎などの酒を造りながらウイスキーも造るとなるとそれぞれの免許に見合った量の酒を造る必要があるでしょうから在庫を抱えるリスクや販売ルートの確保等、素人が雑に考えただけでも難易度が上がる事は容易に想像が付くところ。

一方で、日本の焼酎をアメリカに持って行き、そこで樽熟成させれば向こうではウイスキーとして販売できる。日本では焼酎の免許のまま販売でき、アメリカで売ればウイスキーとして売れる。まさに規制の穴ですね。

ウイスキーの販売量がうなぎ登りな昨今、特にジャパニーズウイスキーの人気は大きいしそこにあやかりたい・・・と考えるのはメーカーとしては自然な発想でしょう。そこで米焼酎をウイスキーとして売るJapanese rice whiskyの誕生、と言う流れでしょうか。


そんな訳で、「樽熟成させた米焼酎」、これをウイスキーと考えるか焼酎と考えるか。
この辺は本当にどうなんでしょうね。仮にキコリウイスキーあたりを日本に逆輸入して販売したら恐らくカテゴリーはウイスキーになるのでしょうが中身は日本の焼酎を樽熟成させたもの。スコッチを日本で樽熟成させたらジャパニーズとして売れる問題と似ていますよね。

まぁ、この辺は人によって受け取り方に差異がある所なのでしょうが、自分は昔、極上堤を飲んだときに長期熟成の焼酎に可能性を感じた一人なので、ライスウイスキーと言うカテゴリーで消費者に分かりやすく提示されているならば、ウイスキーとして幅広く展開して美味しく安く飲めるようになるのも一つの方向性としてはありなんじゃないかなぁと思います。実際、美味しいですしね。

とりあえず熊本の震災復興を支援してるので奥球磨は個人的に推しておきたいと思います:)

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