2020年4月13日月曜日

コロナ禍とバー

久しぶりの更新です。
年度末の仕事の多さに加えて弟の事業の手伝いをしていて、忙しいながらも充実した日々を過ごしていました。そんな矢先に発生した新型コロナの蔓延。中小企業や個人事業主、特に飲食店などの外出を前提とした職種は甚大な影響を被る事態になっています。

私が贔屓にしていたバーも一件、コロナの影響で店を閉じる事になりました。
とある一杯でバーボンの旨さに目覚めたものの、中々バーボンの扱いが手広い店を見つける事が出来ず、県内のあらゆるバーを飲み歩いてついに見つけた、隠れた名店とも言える店でした。普段あまり表立ってやっている店ではないからこそ、逆に影響は甚大だったようで、閉めると聞いた時は本当にショックでした。

こういう時こそ、自分のような飲み手は店を支える為に通いたいと思うので足繁く通っていたのですが、体力が無い店ほど追い詰められていく。今までには意識もしていなかった状況がどんどん目の前に広がってきました。

そしてついに先日には福岡でも緊急事態宣言が発令され、休店するバーも出てきました。店を休むことに決めた以上、客としては行けないのでそういう店に関してはまた開店するまで待つだけです。ただ、問題なのはそんな状況でも開いている店です。自分の行きつけの、一番のお気に入りのバーはこの状況でも開いているんですよね。当然ですが、休店する余力が無いから開けている訳です。

支援したいので行ってみる訳ですが、店主から出る最初の言葉が「助かります」だったりするものだから余計につらいんですよね。客はいませんが、あまり長居せずに金を落とす為にお高めなものを選んでサッと帰るようにはしていますが、自分みたいなのが一人二人いてもどのくらい売り上げに貢献出来るものなのか…。

国が大きな支援をしてくれればと思うのですが、日本のコロナ禍に対する中小企業への支給は30万円で、しかも結構面倒な手続きが必要です。仮に支給されても、30万なんて事業をしていればすぐに飛んでいく金です。当座の資金としても弱すぎる。

小売業の免許を特例にして、店の商品を同一県内に限り通販可能にするとのことですが、バーのウイスキーを小瓶で一つの県内だけで販売しても大した金額にはならないでしょう。

何より、緊急事態宣言はGWまで続きますが、そこまで自粛をしたら元に戻せるかというと物凄く怪しい。そもそも、夏までに解決できないからオリンピックを延期した訳で、海外のニュースサイトを見ているとほとんどが来年のオリンピックも無理だという論調です。一か月やそこらで収束する話の前提では全然無い。半年、一年と続いたら今は休店している店も必ずコロナ禍が収まっていなくても再開せざるを得なくなるでしょう。

これから大変な不況が来ると思いますが、個人的にはこの状況はより長く、じわじわと続くと思います。どんな時でも、美味しいウイスキーを飲むために自分で出来る事は何かないかなぁと思案している毎日です。

2020年2月8日土曜日

イチローズモルト エースオブスペード


Ichiro's Malt Ace of Spades
78点

トップノートはプラム、シェリー、ジワリと広がるトフィー
口に含むとフルーツ感がほどけて来る。多層感もそこそこあってバランスが良い。


昨年、カードシリーズ全種コンプリートが1億円以上で落札された、という事でまたまた値段が上がってしまったようなカードシリーズ。今回は良い事があったので奮発して飲んでみよう、と思って前から飲みたかったスペードに挑戦しました。スパニッシュオークのシェリー樽だとこうなる、みたいなシェリー感タップリの一品で、とてもバランスよくて美味しい一品です。

ただ、個人的には期待度高過ぎたかな…という印象でした。
素晴らしい出来なのはたしかですが、昨今の高すぎるジャパニーズに拘らず質の良いスコッチを探すべき、という気持ちが確かなものになったという意味では感慨深い一品でしたね。

それにしてもイチローズモルトも高いですよね。スペードはざっくりと調べただけで数百万という価格になっていますね。いやぁ、お高いお高い…。
お店の方出されるものはさすがにそんな金額に合わせてるお店は多くは無いと思いますが、それでも数あるモルトの中でも高価な部類になります。しっかりと諭吉を準備していきたいところ。自分みたいにウイスキー沼にはまってしまうと、それが高いか旨いかといった事よりも、その銘柄のその一品を飲んでみたいという欲求に捕らわれてしまうので問題は全然無い(?)のですが、興味があるといった程度なら触らずにおくのが賢明な気がします。

2020年1月2日木曜日

あけましておめでとうございます

皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年度もよろしくお願いします。
昨年は年末があまりに忙しくて更新をサボっていましたが、あと一ヶ月ほど忙しいのでサボるつもりです(^^;
二月から更新再開したいと思っておりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m

今年の目標は更なる日本の蒸留所巡り。出来れば余市か宮城峡に行きたいと思っています。時間があって、イギリスがEUから離脱して為替が美味しそうならスコットランドも行きたい所ですが・・・('-'

あと、恒例だった年末酒屋巡りも今年はやっていません。
というか、自分の行動範囲内の酒屋は全て回りつくしました。本当に全ての酒屋を巡りました(^^;
同県でも押さえていない地域はありますが、後は何か理由でそういった場所に出かけたり、他県に何かしらの理由で赴いた時に探すくらいでしょう。そして、もう基本的にはオールドボトルは殆ど売り尽くされてしまったと思います。まだ残っている店もありますが、価値が特に高いような出物はもうそうそう無いでしょうね。まぁネタ的なものとしては・・・


伝説のもしもしウイスキーを置いている酒屋なんかもありましたね。
いつかネタで記事を書いた気もしますが、ご存じない方は調べてみましょう('-'


最近、販促を伸ばしている嘉之助蒸留所で知られている小正醸造のメローコヅルシリーズ。樫樽で米焼酎を熟成させたものですが、これは2007年頃に出された酒齢30~50年のブレンドというプレミアム版。こちらは縁あって売れ残っている酒屋さんを見つけて交渉の末に買って親父にプレゼントしました。評価の記事は書いていますがアップしていません。いつか機会があれば上げますが、先に言っておくとウイスキー好きとしてはちょっと物足りなかったです。

あとは自分の行動圏内にオールドバーボンに強いお店を見つけたので通いまくっているところですかね。こちらも記事は書いているがアップしていません。何度か飲んで確認してみたいところもありまして。そうはいっても最近は本当に忙しくてご無沙汰ですが・・・、来月からは肝臓の余裕を見て行きたい所です。

まぁそんな感じで相変わらず温い更新頻度のブログですが本年度もよろしくお願いします。

2019年9月9日月曜日

悪のサントリー?

山崎や響といったブランドで世界を牽引している、ジャパニーズウイスキーの巨頭とも言えるサントリー。今やその功績は日本人として誇らしいとも思えるほどです。しかしそんなサントリーのウイスキーですが、過去にこんな話がされていた事をご存知でしょうか。

・サントリーのウイスキーは加糖されていた(混ぜ物がされていた)
・山崎蒸留所に向かっていた原材料を乗せたトラックが横転し、中から大量の「芋」が出てきたという事故があった
・原材料の「モルト、グレン」のグレンとはGren(穀物)ではなく、山崎渓のGlen(峡谷)を意味する単なる工業用アルコールだと説明していた

この手の話は割と有名なので、こういった話を理由にサントリーを毛嫌いされているバーテンダーさんや酒屋さんなども未だにいます。ですが、何じゃそりゃ?と思った方は、今回の記事は近代における日本のウイスキーの歴史や現状を理解する上で興味深い話になるかもしれません。

そんな訳で今回はサントリーが昔、どんな形で槍玉に挙げられていたかをまとめてみました。



高度経済成長期の真っ只中だった1970年の中頃、当時の酒は自由化されていなかったのでスーパーなどで酒は売られておらず、免許を持った酒屋でしか買う事が出来ませんでした。酒屋は無難に売れる大手の酒ばかりを置くのでどこの店でも黄桜や月桂冠といった同じような大手の酒しか並んでいない状況でした。

そんな折に日本酒の一大ブームが起きました。理由はこういった大手の酒メーカーに対する「告発本」や地方に点在する「美味い酒蔵」といった情報を発信する書籍が出回ってきたためです。

当時の業界では大手の酒造メーカーが中小の酒蔵にお酒を作ってもらって自分たちが安く買い取る「桶買い」という手法が行われていました。そうやって集めた酒に様々な添加物や水増しするための工業用アルコールなどを加味させて自社のラベルに張り替えて大々的に売り出すと言う行為が普通に行われていました。「灘の銘酒」などとして売りに出されている酒が、中身は灘とはまったく無関係の酒蔵のお酒だったりする訳です。

一方、中小の酒蔵の幾つかは添加物や工業用アルコールなどを加えない、米と麹だけで作った美味しい日本酒を地元の人だけに細々と売っていると言った状況でした。ネットなどが無い時代だからそういった情報は地元の人にしか伝わらなかった訳ですね。

そんな状況に気がついたジャーナリスト達が書籍などを通して、地元に根付いた日本中の地酒を紹介する本や、「大手酒造メーカーは偽物の酒を売っている」「商品偽装でしかない」などとする暴露本や告発本で情報発信をして、その結果地酒の一大ブームになったといった経緯があった訳です。

そんな経緯の折に、サントリーのウイスキーも槍玉に挙がりました。
最初に述べたような告発が書かれた本は、82年に日本消費者連盟が三一新書から出版した「ほんものの酒を!」と言う本です。

サントリー叩きの代名詞みたいな内容ですが、当時の酒税法の問題にも触れられていてとても興味深い内容です。

例えば、当時(1980年代初頭)の酒は級別に分けられており、特級、一級、二級といった区分になっていました。名前だけ聞くと特級が凄い酒という印象ですが、これらは単に原酒の含有率やアルコール度数を基準としたものです。しかし原酒含有率は特級でも30%以上、1級は20~27%という規定だったので、これは逆に言えば70%が芋や廃糖蜜等から作られた工業用アルコールを入れても特級ウイスキーと名乗れるという訳です。ウイスキーに工業用アルコールやリキュール類といった添加物を混ぜる事を法律上で禁止している本場スコットランドと比べたら、当時の日本のウイスキーは明らかに別物だという訳ですね。

そんなウイスキーをサントリーオールドだけで年間1億本以上売り上げていた訳ですから、当然そんな膨大な量の原酒を国内の生産だけでまかなう事は不可能で、多くの原酒は海外からのバルクです。しかもウイスキーに加えるモルトの熟成年数に対する各社に対する質問で、ニッカなどは「最低三年」と答えていた一方で、サントリーは「最低一年」と言っていた事なども槍玉に挙げられています。

他にも様々な告発や問題提起がなされています。今では対応された問題もありますが、そうでないものもあります。興味がある方は本を読まれてみてください。


要するに、日本の法制度の穴を上手くついて、一年程度の熟成期間の国産原酒や安い海外産原酒を工業用アルコールに混ぜ、さらに甘味リキュールなどで加糖し味を調えて「ウイスキー」として売り出していた。しかもそれらを巧みな広告戦略で「素晴らしい本物のウイスキー」と宣伝し、バブル景気の後押しも相まって大もうけ…、サントリーにはそんな時代があった、といった内容ですね。


こんな内容なのでサントリーを毛嫌いしている方は今でも多い。ただ、内容はある程度事実に基づいたものでしょうが、個人的にはこの本の内容は完全に鵜呑みにせずに、事実関係だけを参考にした方が良いと思います。

というのも、この書籍を出した三一書房は左翼的で反権威、反体制的な論評の書籍をバンバン出していることで有名な出版社だからです。そして、この本の著者は「買ってはいけないシリーズ」で有名な船瀬俊介氏。ファンも多いようですが、煽動的な書き方に対して否定的な論評もかなり多い人です。

なのでこの本もぶっちゃけ典型的な美味しんぼ論法です。
「添加物が入っていないものが正義、美味しい、健康」
「本当に素晴らしいものは権力が押さえつけている」
みたいな、やや雑な主張です。

そもそもシングルモルト山崎が販売されたのが84年ですから、ちゃんとサントリーに取材していればサントリーも著者の言うところの「本物の酒」を作っていた事も分かる筈ですが、この辺は言及されません。サントリーは悪という図式から外れるからでしょう。

そんな訳で、偏りのある出版社と偏りのある著者によって書かれた煽動的な本だと言うのが「ほんものの酒を!」と言う本に対する私の正直な感想です。しかし、それでもこの本は読む価値がある書籍だと思います。何故ならこの本を読めば、旧酒税法を含めた当時の酒の状況は本当に大きな問題を抱えていて、サントリーなどはそういった時代の抜け穴を利用して上手くのし上がったと言う経緯を理解できるからです。

そして、そういった過去の事実を踏まえた上で現代のジャパニーズウイスキーという定義や倉吉問題などを見返すと、また少し違った観点から考えることが出来ると思うんですよね。ジャパニーズウイスキーの現状に対する理解を深めたい方の一助になれば幸いです。



余談ですが、今回のように過去の書籍を漁ると「サントリーは宣伝の企業でニッカは堅実な企業だ」などと揶揄されてきたのが良くわかります。級別の旧酒税法時代でのニッカのウイスキーの構成などを調べると、一級なのにモルト比率が特級レベルに高い商品なんてのもあるんですよね。恐らくアルコール度数を下げて一級にする事で売値を下げ、特級の高いウイスキーを乱発するサントリーと住み分けつつ、安く質の良いウイスキーを作ろうとしたのでしょう。こういう企業姿勢が今でもそれとなく評価の下支えをしていると思いたいところです。

2019年8月30日金曜日

倉吉 NA & 倉吉シェリーカスク


Kurayoshi Pure Malt Non-Age
63点
セメダイン香強い。口に含むと軽く華やかな柑橘系のフルーツ感が少し。
若干辛いが加水率が高めなせいか強いと言うほどではない。
典型的なハイランドモルトの特徴。飲み口は優しい方。

Kurayoshi Pure Malt Sherry Cask
60点
シェリー感が乏しい。チョコやトフィーの要素が少し。
インパクトに乏しく、テクスチャの広がりもいまいち。


以前倉吉でこんな記事を書いたことがあります。
今更ながら倉吉の事

あれから数年経ちましたが
ついに倉吉を飲む機会が訪れましたw

自分で買うほどじゃないしなぁと食指は動かず、しかし飲んでみない事には評価できないからと色々なバーに立ち寄った際に探してはいたのですが・・・、無いんですよね、倉吉。それなりにちゃんとモルトを扱ってそうな店にしか顔を出さないからってのもあるんでしょうけど、本当に見つかりませんでしたね。何処にでも売っているのに。近くて遠い存在でした。

そんな折、たまに顔を出すバーで以前旅行で買ったお土産のウイスキーを寄贈してお客さんに振舞っていただいた事があったのですが、その時にいた方が私が倉吉を飲んでみたいといっていた事をマスターから聞いて、なんとわざわざ自分のボトルをお店に持ってきてくれていたのだそう。ありがたいお話ですね。感謝しつつありがたく頂く事に('-'*

で、飲んでみた感想ですが・・・、ぶっちゃけ不味くはないです。
というか美味しい普通の「スコッチ」です。スタンダードなハイランドモルトですね。比率は分かりませんがハイランドモルトの比率がかなり高い。何処の蒸留所のものかは分かりませんが、元々はちゃんとスコットランドの規定の下で作られたお酒なんで、売り方がどうだろうと酒質は決して悪く無いんですよね。


「でも、ぶっちゃけグレンフィディック12年のが熟成感あるし似た傾向の酒質だし、倉吉NAが4-5000円くらいでフィディック12年が3000円くらいだからフィディック買ったほうが良くね?」
「そうですね」
制作・著作
━━━━━
ⓃⒽⓀ


別に倉吉をディスりたい訳じゃないんですけど、値段と内容を考えると大手が普通に出してるハイランドのシングルモルトで良いやんって結論になりますかね。自分はコスパ重視路線なので('-'

ちなみにもう一つのシェリーカスクの方は名ばかりのシェリーといった印象で、NAよりいけてないのが正直な印象です。

そんな訳で私の評価として、倉吉は純粋に高い、コスパが悪い。それだけですね。
中身はちゃんとした代物なので何かのキッカケで贈答品として頂いたといった事があったら美味しく頂ける、そんなお酒です。




さて、これ以降は余談です。
前回の記事を書いてから3年近くが過ぎました。しかし、倉吉から端を発した「日本のウイスキーの定義が緩い問題」は解決するような雰囲気は全く無い状況。

この状況について、日本の某ウイスキー界の有名人の方もこの問題を認識しつつ、しかし「世界にあわせて逆に定義が緩くなっていくのではないか」と仰っていたのだそう。

確かに、最近なんかは「ジョニーウォーカー ワインカスクブレンド」のように「あえて今までの常識からズレた試験的で意欲的な商品」が試金石のように世に出てきています。そして結構、高評価。自分もあの値段であの品質なら中々悪くないと思うんですよね。

ウイスキー消費量の増加、シェリー樽の不足、嗜好のマンネリ化、そして良質なウイスキーはすぐに高騰してしまって飲める金額ではなくなってしまう。こんな状況ですから売り手もあの手この手で幅を広げていくのが世界基準になってきているのかもしれません。

しかし、それでもやはり私としては日本の制度を見直すべきだと思うのです。


国内展開や資金調達の為に海外に売り出すだけならまだしも、海外の品評会に出して賞まで取るような事になるとやはり少し行き過ぎな印象が…。

受賞した熟成年数表記がある倉吉には自社で作っている酒は一滴も入っていない筈です。倉吉蒸留所が出来たのは平成29年だからです。しかし、何も知らない外国人が受賞を機にジャパニーズウイスキーに興味を持って倉吉の事を調べたら倉吉蒸留所の名前が出てきてきます。そして海外の倉吉の紹介サイトには松井酒造の操業年が1910年と書かれているので、古くからウイスキーを造ってきている会社だと誤認するのが普通でしょう。しかし中身は殆ど輸入したスコッチで松井酒造が作ったウイスキーは一滴も入っていない訳です。そういう状況を知った外国の愛飲家達がジャパニーズウイスキーというブランドにどういう印象を持つか…

世界の流れだからと、こういう事が出来てしまう状況を放置する事は日本の業界にとって決してプラスにはならないと思うんですよね。何とか法整備を見直す機運が高まって欲しい所です。